第8章 教えてくれたのは君だった。
沖田side
重たい瞼を開ければ見慣れた天井が目に入った。少し古くなった天井の木目はいつもと同じ。
屯所だということにすぐ気がついた。
起き上がろうとすれば腹に強い痛みが沖田を襲う。
「い"っ……!」
歯の隙間から溢れる声。
その痛みが沖田にすべてのことを思い出させた。
宗という人物に会ったことも。
戦い、負けたことも。
何も守ることも、取り戻すことも出来なかったことも。
自分がひどく無力だったことも。
「くそっ……!」
沖田は柔らかな白い布団に拳を落とした。
拳を落としたところで確かな手応えはなく、ただ柔らかく布団は沖田を受け止める。
じわり、と視界が滲んだ。
それと同時に沖田の頬に暖かいものが流れ、それは止まることなく沖田の頬を滑り落ちていき、真っ白な布の上にシミを作った。
熱いものが喉まで込み上げ嗚咽する。
カッコ悪い。
そんなのは百も承知だった。
ただ、どうしようもなく悲しくて。
耐えようと思っても、堪えようと思っても、歯を食い縛っても、それは後から後から流れてくる。
「千里……。」
もう俺は必要ないか?
もう俺はお前を助けることも出来ないか?
今の状況が彼女にとっての幸せなら。
それでいいんじゃないか。
そんな考えが頭をめぐる。
正しくないことか正しいことかもう俺には分からない。
俺はお前が一番苦しんでいるときに傍にいてやれなかった。
助けてやれなかった。
なぁ……お前今雨宮の前でどんな顔してるんだ?
笑ってるか?
彼女が幸せだと言い切る"幸せ"を自分が壊す権利などあるのだろうか。
彼女が求める"愛"を自分が奪う権利などあるのだろうか。
あいつを理解して助けてやりたいと思ってた。
でもそれは"理解"ではなく"同情"なのではないか?
助けてやりたいと思った時点で自分が上だと思っていたんじゃないのか。
「千里…………。」
誰か答えを俺に教えてくれ。