第8章 教えてくれたのは君だった。
沖田side
霞む視界をこらえながら吹っ飛んだ襖から出てきた人物を沖田はみた。
長い黒髪。
男とは思えない白い肌。
刀を掲げ、不敵に微笑み立つ男の姿。
後ろにいる男達が全信頼を寄せる________
"狂乱の貴公子"
桂小太郎、その人だった。
「か、つら……!」
虚勢でも何でもない掠れ掠れの声は桂には届かなかったのか、桂の視線は宗と千里のもとにあった。
桂は不快そうに眉を寄せた後、手だけで部下たちを動かす。
我に返った隊員達がそれらの対応に当たるが十分戦力を失ったこちらの方が劣性だった。
「外の隊員達は!?」
叫ぶようにして土方が確認をとろうとすれば、以外にも返事をしたのは桂だった。
淡々とした口調で言葉を紡ぐ。
「眠らせたよ、土方。」
その指に収まっているのは小さな小瓶。
霧吹きのような形をしていることから直接顔に吹き掛けたのだと予測がついた。
土方が顔を歪ませる。
短時間で決着をつけられなかったこちらの敗けだということを察した。
「貴様達の負けだ、土方。悪いがこの二人はまだまだ働いてもらわねばならん。しかも今回はこちらの不手際。」
瞳を細くし土方を見据える桂。
かちゃり、と刀を構え、言葉を続けた。
「ここで死なせたら侍の名が廃る。」
その言葉が紡がれた瞬間、灯りが消えた。
「何っ……!?」
「おい!灯りは!?」
回りは暗闇に包まれ、隊員達の混乱した声だけが響く。
外では雨が降っているため月明かりもない。
まさに何も見えない状況だった。
「千里っ……!」
それでも彼女を探そうと沖田は試みた。
震える足を叩き起こすように起き上がる。しかし血を流しすぎたのか上手く力が入らず、膝をついてしまった。
腹に手を当てればぬらぬらとした生暖かいモノが手にべたりとつく。
額からは冷や汗が流れ、足は痺れ、痛みの感覚は薄れていく。
しかしそれでも沖田は彼女の名を呼ぶことを、彼女を探すことをやめなかった。
歯を食い縛り、何度も何度も。
「千里っ……千里、行くなっ……!」
沖田は必死に手を伸ばした。
この手を握ってくれると信じた。
あの温もりが返ってくることを切に願った。
しかしその手は温もりを忘れたまま_____
沖田の意識はそこでブラックアウトした。