第8章 教えてくれたのは君だった。
土方side
どう言うことだ。
「はぁ……っ、うぅっ……!」
土方か叫んだ瞬間、彼女が苦しみ始めた。
それは土方を驚かせるのに十分なことで。
刀を落とすことさえしないが、苦しそうに胸を押さえて、浅い呼吸を繰り返す彼女は何かあったとしか思えない。
土方は考えるより先に体が動いた。
「千里っ!!!」
折れた刀を放り、千里に駆け寄る。
こんなことは本来許されないが土方は反射的に彼女に近づいていた。
ふらついている彼女の肩に手を置けば、彼女が力を失ったかのように膝をつく。
「あ、は……っはぁっ……。」
額から大量の汗を流す彼女の体はガクガクと震えていた。目は虚ろでどこを見つめているのか分からない。
ただ彼女のなかにいた何かが消えていくのは一目瞭然で、髪の色が変わり、冷気が無くなっていく。
しかしそんなことに喜ぶ暇はなかった。
肌は青白く染まっていき、震えはさらに大きくなる。
彼女の心が危ないのは土方でも分かった。
「千里っ!」
土方が彼女を呼び戻そうと名を大声で呼び掛ける。
反応がない。
瞳に涙をため、ぶつぶつと何か言っている。
聞き取れないほど小さく、低い声。
「千里っ!千里っ!」
分からない、どこで俺は引き金を引いた?
千里のどこに琴線が触れた?
「千里______」
その時、答えはでなかったが無意識に千里の頭に土方の手が伸びた。小さい頃にやっていたのと同じように、ごく自然な動作で。
細くて柔らかい髪に無骨な手が触れようとする。
しかし、それは許されなかった。
「土方ァァァァッッッ!!!!!」
「トシィィッッッ!!!!!」
「副長ォォォッッッ!!!!!」
同時に響く空間を裂くようないくつもの声。
背中に感じた強烈な寒気と彼らの声が本能的に土方をその場から退かせた。
畳の上を転がってその場から土方は避ける。
息を荒らしながら先程まで自分がいた場所を見れば一本の刀が深く深く刺さっていた。
畳を抉り通し、床の樹木にまで及んでいるであろうそれは、もしその場にいたら土方の体を確実に貫いていたであろう物であった。
そしてその刀の主はこれほどまでになく怒りに燃えている。
ゆらりゆらりと怒りの気炎が見えるのは気のせいではない。