第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
千里は一気に標的と距離を詰めた。
"雪螢"は瞬発力や力は"雨龍"には遠く及ばないため脚力はいつもと同じだが、体から発せられる冷気は切れ味を何倍にも膨れ上がらせる。
「行くよ。」
本当に呟くように小さく言えば刀が返事をするように冷たくなる。
千里はそれを背中を向けている土方に向かって降り下ろした。
「……っ!?」
すんでのところで気が付いた彼は振り返り、その刀を受け止めようと試みる。
しかし切れ味には勝つことが出来ず、すぱりと言いそうな小気味のよい音をたてて刃が落ちる。
「なっ……!?」
「普通の刀がコレに勝つなんて有り得ない。」
不敵に微笑んで見せれば、彼は大きく目を見開き歯を食いしばり、悔しそうな顔を見せる。
「お前はっ……!!」
「なに?」
「総吾が斬られてもいいって言うのか!」
切羽詰まった表情にハッとしてそちらを見れば、沖田が膝をついていた。
その腹からは止まることなく、血があふれでている。宗となにか会話をしているようだが聞き取れない。
しかし千里思い直し、土方に視線を戻し、言った。
「敵を斬るのに損があるの?」
その言葉に土方の瞳に絶望が強く浮かぶ。
次々に彼の瞳に浮かぶのは沢山の気持ちの奔流。判別がつかない感情の波。
「千里っ……お前は、」
掠れた喉で必死に言葉を紡ぐ土方。途中、肩を震わせ、視線を落とす。
「お前はっ……!」
その声色は幾重にも重ねられた鎖を想像させるほど痛々しいもので。
しかし、雪螢と連動している千里に理性など微かしかない。その間にも千里は刀を振り落とそうと構える。
土方は視線を下に落としていたため、その姿が見えていないのか、頼りなく肩を落としてままだ。
殺せる。
千里は躊躇うことなく確信し、目の前にいる男が旧友だと忘れた瞬間_____。
「あの頃の優しい真っ直ぐなお前はいないのかっ……!!?」
千里の耳に切実な言葉が響いた。
心の中にある理性と感情が逆流する。
体の自由も奪われた。
「……は、ぁっ!?」
心臓が規律を失ったかのように荒れ狂い、同時に汗が吹き出る。手足が冷えていき、頭の裏が熱くなる。
喉は掠れ、息の仕方がわからない。
_______まずい、発作だ。