第8章 教えてくれたのは君だった。
沖田side
"A"はまた回転し、沖田との距離を保ちながら言葉を紡いだ。
「守れと言われたのです。千里と共に生きて帰りたいとね。」
同時に、くないがとんでくる。
それを弾き返せば刀が目の前に迫っていた。
「っ……!?」
「初めてですよ、彼が頼んだの。」
"A"は躊躇いもなく沖田の腹を斬った。
血飛沫が上がり、沖田の腹を赤く染める。
酷い鈍痛が沖田を襲うが、歯を食い縛った。
思ったよりも深く腹はえぐられ、沖田はその場に膝をついた。
「総吾!」
近藤の焦った声がその場に響く。そしてその声は他の隊員達を呼び覚ました。
「沖田隊長っっ!」
「貴様よくも!」
数十名が"A"に向かって突進していく。
表情は固く、冷静な判断は出来ていなかった。
「やめやがれお前ら!!!!」
その姿を見て最悪の事態を思い浮かべた沖田。沖田は必死の思いで叫んだが、それは届かなかった。
その間も"A"は冷たい瞳で沖田を見下ろしている。
「成程……これが主君への忠誠と言うわけですか。」
沖田が反抗的な瞳を見せれば、"A"は退屈そうに視線を返してくる。
「まぁ見ていてください、貴方は何一つ守れないところを。」
「テメェ……!」
その食い縛った歯から溢れる言葉に"A"は反応することはない。
代わりに目の前の仲間が次々と倒れていく。
「おいお前ら下がれ!」
沖田は痛む腹を押さえて立とうとするが、血を流しすぎたか、動脈を損傷したか、うまく立てない。
「くそっ……くそっ……!!」
そしてその言葉を漏らす間にも土方が焦ったようにこちらに来るのが見える。
「来るな土方ァッッ!!!」
力を振り絞り叫ぶ沖田。
いつもこのくらいの傷なら立てるはずなのに、全身が痺れていて立てない。
そのもどかしさに毒を盛られていたことに気がつく。
「何も守れない_______分かりますか。」
その声に導かれるように上を見やれば、返り血を浴び、血達磨のような"A"がいた。
血がゆっくりと口元に上がってくる。
「彼女と宗はこのような気持ちを味わったのです。誰も守れない自分の無力さだけではなく、大切な人を守れない悲しさも。」
姉の千鶴。
彼女は自殺だった。
「復讐を生きる糧にするしかなかった。」
自殺の理由は謎のまま。
「でなければ、生きていけないから。」