第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
土方と打ち合っていると、急激な寒気が千里を襲った。
土方も同様だったようで動きが突然止まる。
髪を振り乱してそのもとを探せばすぐにわかった。
異様な空気を纏った一人の男。
あれは、紛れもなく__________……。
「宗……!!!」
怯えに近い声を発すれば土方が此方を見た。
そして直ぐに慌てたように宗に視線を戻す。
その間にもゆっくり、ゆっくりと紫と白の紫陽花の色に宗の髪が染まっていく。
本人は何も思わないのか、ただ一人楽しそうに笑った。
「ククッ……。」
宗の奇妙に歪んだ顔に千里は戦慄する。それと同時に初めて見る彼の"妖刀"の力に目を輝かせた。
__________これが……。
「さて……沖田、だっけ?」
彼の体内に蠢くものが何なのか。
千里は知る由もない。
はたしてそれは悪か正義か。
醜く歪んだ感情に答えるのはやはり悪なのか。
でも、そんなことは千里には関係ない。
必要なのは彼への信頼と生きるために培ってきた復讐心だけでいい。
彼がどんな姿に変化しようが、鬼に魂を喰われようがその瞳をしている限り彼は彼のまま。私がついていくと決めた彼のまま。
「千里!!」
突然彼が叫ぶ。
雨の音にも負けない、力強く覇気に満ちた声。その声と言葉にしゃんと背筋が延びた。
「行くぞ!」
はっとして目を見開く。
そして顎を引き、唇を結び、刀を構え直した。
_________そう、こんなところで死ぬわけにはいかない。
「生きて帰るの、あの腕のなかに。」
桜色の唇から確かな本音がこぼれだす。
あの暖かな腕のなかに。
確かな愛のある場所に。
憎しみだけを糧に生きてきた同志とともに。
千里は神経を張り積め、"雪螢"を利き手に持ち、念じた。
_________ぃ……。
「ぉぉおおおおお!!!」
その時隊員達が二人の異変に気がつき、焦ったように襲いかかった。
本能とも言えるこの行動。沖田と土方だけでは勝てないと思った正しい判断だった。
しかしそれは定石の話。
ここにいるのはただの化物。
人間を捨て、妖怪と手を組んだ化物。
千里は彼女を呼んだ。
心に悪魔が巣食い、憎しみに満ちた彼女の名を。
____________来い、"雪螢"。