第8章 教えてくれたのは君だった。
沖田side
突然、ぶわりと凄まじいまでの"気"が皆を喰らった。
神経をすり減らして刀を構え続けていたものも、手当てをしていたものも、指揮を執っていた近藤も、千里と戦っていた土方も。
全員が動くことを忘れ、まるで時計の針が止まってしまったかのように固まった。
千里も沖田も例外ではない。
寒気でも、悪寒でも、興奮でもないある種の緊張が体の中を走ったのだ。
そしてそれを発した人物に目を奪われ、硬直する。
「な、ん……。」
何だそれ。
そう言いたかった沖田だが声にはならなかった。
先程まで目の前で戦っていた男、雨宮宗の髪の色が淡い紫陽花の色に似た紫に染まっていく。
突然変異と言わざる終えない速さに恐怖し、現実で起こりうるのかという疑問が沖田の中で加速した。
有り得ない、有り得ない。
ストレスで一晩で白髪になる噂は耳に挟んだことがある。けれど目の前で、しかも今この瞬間も色が代わり続けることなど有り得ることじゃない。
「テメェ……何しやがってるんでィ!」
獣のように噛みつくように沖田が吠えれば、宗は髪の毛を触った。
皆の視線が紙に集まっていることに気がついていたのだろう、嘲笑う。
「ストレスで髪がおかしくなっちまった。」
「嘘言うんじゃねェや、現にお前は動揺ひとつしてねぇじゃねェか。」
苛立ちを露にしながら沖田が鋭い眼光を宗に向ける。それでも彼は楽しそうに笑ったまま言葉を続けた。
「馬鹿いえ、俺は以外に打たれ弱い。」
薄紫色に染まった髪から覗く異様な"気"。
真っ黒な瞳のなかに浮かぶ殺気。
体からあふれでる憎しみと復讐への願望。
全てが混ざり合い、織り合わせられ、混沌とした空気を作り上げる。
彼の雰囲気に圧倒されながらも、沖田はあるふたつのことを確信した。
その一方の事に心を痛めながら、ぎろりと宗を睨み付け、言う。
「……そうですかィ、気が合いそうでさァ。……ただなァ……。」
ガチャリと手元から音を発してゆっくり重心を下に下ろしていく。
低く、低く、完璧なバランスを目指して。
この時に沖田は悟った。宗の恐ろしさを。
「Sは同族嫌悪するんでィ……。」
直感が沖田に告げていた。
狩らなければ、狩られると。
「予定変更でィ、死にな。」
______________殺やらなければ、殺られると。