第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
弾く音と鈍く太い音が耳障りに響く。
土方は説得は諦めたのかもうなにもいってこないが剣の速さは速くなった。
千里は土方が若干の手加減をしていたのには気付いているが、それでもかわすので精一杯なようで額に汗を浮かべている。
"雪螢"を使えばいいのだろうが、千里は出来れば使いたくなかった。
チートな力には代償がつきものだからだ。
誘拐事件の時は己の意志と実力を見せたいがために行使したが、普段は"力"を使わない。
……ましてや、宗が"雨龍"を使ったのに。
相性抜群のこの二つの妖刀は一度波動が合えばコントロールできるか確信がない。
自身にデメリットがあるのは明らかだが。
ちらりと宗を見やれば、沖田の怒濤の攻撃をかわしているところだった。
無駄のない俊敏な動き。
お互いの反射をギリギリまで引き出し、積み上げてきた経験から来る予測をし合うことで常人ではなし得ない領域に達している。
「おい、どこ見てやがる。」
すると、苛立ちを含む肌を刺すような刺々しい声と共に刀が振り下げられた。
その斬撃をかわしつつ、間合いをとる。
……やばい、な。
千里は自分の動きが鈍っているのを察する。正確に言えば相手の動きが洗練し始められているのだ。
追い付けない、追い付かない。
あのときの土方には動揺があったから攻撃が単調になりがちだった。読みやすく、避けやすかった。しかし今回は包囲網を張り巡らせるように、執拗に相手の逃げ場をなくしていく。
千里の実力だけでは届かない力。
まだ傷こそついていないが息が上がる。
いつ組み込まれてもおかしくない。
逃げ場は無いものかと視界を巡らせても土方の剣もいつ来るかわからない、集中は出来ないのだ。
……でも、体力が切れ始めているのを悟られちゃいけない。
千里はそう思い直し、紅い唇を上げて、余裕の笑みを浮かべるフリをする。
土方は上手く勘違いしたのか、神経を張り積め、千里を見つめた。