第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
「援護しにいかなくていいのか?大事なご主人なんだろ?」
「人聞きの悪いこと言わないでくれません?」
互いに会話しながら斬りかかる。
相手を避けて斬りつける、それを避けられる。その繰り返しだ。
他の隊員はこの高度なやりあいに入ってこれないのか、ただ刀を構えたままだ。
「総吾が強いのは知ってるけど、宗はそれ以上です。」
それに彼は自分の戦い、ましてや命を懸けたやりあいに私が乱入するのを嫌う。
どうしてかは、わからないけど。
この事を言うとなめられそうなので言わないが、口に出した方も本心だった。
「宗なら、総吾にだって負けない。」
その言葉にピクリと土方の眉が動く。
千里は心からそう思ったが土方の気に触ったらしく一気に間合いを積めてきた。
本能的にヤバイと察知した千里は"雪螢"でその刀を受け止める。
土方は沖田からこの刀の概要を聞いたこともあり、見たこともあったので表情を引き締めた。
彼女からその刀を引き剥がそうと彼女の腕に狙いを定め、放つ。
千里はもう一方の刀でそれを受け止め、お互いの顔を寄せあった。
「帰ってこい、千里っ……!」
「お断りです。」
それに、と静かな冷たい声で千里は言葉を紡ぐ。
「私は帰ってきたんです。愛しい暖かさのあるこの場所に。貴方達じゃない。宗がいる所が私の今の居場所。宗の夢が私の夢。」
「人を殺すことが夢か。お前がやっていることは間違っている!」
「大志を抱いた人たちを殺して何をほざいているんですか。」
「お前がやっているのは復讐だ、俺達とはワケが違う。」
「同じですよ。人を殺して、血を流して、修羅の道を行くのだから。」
平行線の言い合いが続く。
どちらも同じことをいっているようにも聞こえるが、決定的に違う"なにか"が二人の間の溝を表していた。
越えられない壁。
埋まらない溝と、届かない思い。
けれど引くわけにはいかないそれぞれの矜持。
相反する火花が散り、戦いを激化させていく。