第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
「やっぱり来ると信じてやした。」
そう付け加えて不適に微笑む沖田。
しかし目が笑っていない。
千里は戦慄した。
当てずっぽうじゃない。
ちゃんと勝算があってここに来てる。
なら、私たちは罠にはまったってこと?
そう思った瞬間、四方八方の襖から真選組が出てくる。各々が刀を構え、油断など一ミリもしていない。
後ろには土方と近藤がいて退路も塞がれた。
冷や汗が背中を流れる。
鼓動がさらに早くなって思考力が奪われる。
頭は熱いのに足元だけ急激に冷えていって、崖から落とされた浮遊感が同時に襲う。
いつばれた?そんな手ががりなんて残さなかったのに!
脳裏に横切ったのには桂だったが、思い直す。そんなことを彼がして得になるわけない。
胸の奥が刃物に押し付けられたように冷たくなる。
ぐるぐると思考を巡らすが良い案は浮かばない。ただ最悪の事態が目に浮かぶ。
二人が捕まって、彼が殺される映像が。
「雨宮宗、だな。」
低く、怒りを押さえた声がその場を支配する。声を発したのは沖田だった。
その凍てつく視線は真っ直ぐに宗を捉えている。明らかに憎悪がこもっているようにかんじられた。
「よくも千里をそんな道に引きずりやしたね。」
千里の頬がカッと赤く染まる。
歯を噛みしめ沖田を睨み付けるが、彼はまるでこちらを見ていない。
その赤い___紅い瞳で宗を怒りに満ちた目で見つめていた。
たまらず千里は叫ぶ。
「私はこの道を自分で選んだっ!宗のせいなんかじゃない!」
宗の前に立ちはだかるように位置どれば、沖田の顔が歪み、視線を落とす。
しかし彼はふぅ、と息をはいたあと、また視線を上にあげた。
「……っ!……。」
息がつまり、動けなくなる千里。
全身を冷たい戦慄が駆け抜けていく。
狩られる。
そんな感覚を彼の視線一つで味わった。
「千里は黙っててくだせぇ。……土方さん。」
彼の瞳は、本気だった。
後ろから見えるはずのないモノが迫ってくる。
四方八方にいる敵。
皆豪腕の持ち主。
動揺した様子もない。
不意をついたわけでもない。
彼らも動揺を捨ててきている。
同じ土俵にたったとき、どれだけ強くても私じゃ彼らに勝てない……!