第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
そして、雨夜。
時は来た。
真っ黒な空に浮かぶ月は全く見えない。明かりをともさなければ少し先も見にくい状態だ。
耳元には桂や宗、そして部下達が連絡を取り合う通信機がつけられている。口許にも同様に。
宗の手がかすかに横に動くのを確認して、木をつたって壁を乗り越える。がさり、と音はしたけれども雨の音が隠した。
見張りの人数が変わっていないことを確認し、口許に合図を送る。声を出すことは危ないので一回通信機を叩いた。
少しして宗もすばやく侵入する。
綺麗にぬかるんだ地面に着地した。
そして二人同時に頷いたあと、千里は刀を一本抜いた。
あとはスピード勝負だ。
心の中で静かに念じ、まつげを震わせながら前を見据えた。
自然と刀を握る手に力がこもる。
『行くぞ。』
耳元で桂の声が響いた。
桂は今、裏門の前で五人の部下達と一緒に刀を構えている。
そちらからその数名が侵入し、囮になるてはずだ。
『かかれ。』
瞬間、家来の最後の叫びが響く。
といっても雨の音でかき消され、所々だが。
それでも松明がいきなり消えたことに、他の家来は気づいたようだった。
「曲者だー!!!!」
ひときわ大きな声がその場に指示を与える。
その指示は裏口への増援だった。
内容を聞き取り、その場に家来がいなくなったのを確認する。
大丈夫、計画通りだ。
サッと屋敷のなかに侵入する。
時間は夜の11時。当主の赤根崎はもう寝入っている頃だろうから、寝室へと向かった。
宗と回りを確認しながら、進んでいく。
"焦らなくていい。こちらを任せろ。"
真摯な瞳で訴えた桂を信じ、自分達のやりたいことを成就出きるように赤根崎を確実に殺さなくてはならない。
焦って家来に見つかり退却するなど愚の骨頂だ。
足音を悟られないように進んでいく。
二人の息をはく音と、雨音が混ざり合い、溶けていく。
心臓の荒れ狂う音。
背筋から這い上がる恐怖。
喉から込み上げてくる熱いもの。
全部がぐちゃぐちゃになりそうになるのをたえながら、寝室を目指した。
そして、遂に目の前に。
あと数センチ、そう思いながら手を伸ばし、勢いをつけて襖を開けた______が。
「待ってやした。」
目の前にいたのは他でもない。
「……総ちゃん……!」
黒い服を身に纏った彼らだった。