第8章 教えてくれたのは君だった。
千里side
時は経ち、一週間後。
運も味方してくれたのか、空は真っ黒な雲におおわれ雨が先程降り始めていた。
「隠れながら行動ができそうだな。」
「そうだね、闇に紛れらるし証拠をながしてくれそう。」
そう言いながら刀を灯されている火の光に照らし、斬れ味を確かめるように指で触った。
いつもと変わらない厚みを持った鉄がそれに呼応するように、またキラリと光る。
「そんなに難しい作戦でもないし、カタは一瞬でつくかもな。」
独り言のように呟く宗。
千里は聞こえないフリをして目の前の事に集中する。
あの日桂が提案した作戦は赤根崎を殺すこと以外に捕まった奴隷達を解放することだった。自分達の部下がその奴隷達をそれぞれの故郷に返してやる、そういうことだ。
もちろんすべての人が故郷に帰りたいわけではないだろう、それを考えて奴隷ではなく、奉公としての働き口も用意してくれた。
何かと手が早く、完璧な流れ。
助けるだけじゃダメなのだと、諭された気がした。
「私たちの仕事は、変わらない。」
けれど自分達のやり方を変える必要はないし、ここは素直に桂に甘えることにした。
宗ももちろん理解している。
「最終的に殺すのは俺だ。千里は回りのやつを頼む。余計な殺生はしなくていい。返り血にも気を付けながら立ち回れ。」
それと、と付け加える。
「真選組がいたら相手をせずに逃げる。余程のことがない限り。」
桂との関係はばれていないと思うがな。
宗はそう言いながら千里の隣に座り、確かめるように彼女の頭を撫でた。
戦闘前だからか緊張感を含んでいるように感じられる。
千里は小さく体重を横に移した。
宗の肩に自然と寄り添う形になる。
この暖かみを無くしたくない。
だから隣で剣をふりたい。
心のなかで強く願った。
一度無くし、守れなかった思いはここで果たしたい。
「死ぬなよ。」
「宗こそ。」
二人で微笑みながら、目を合わせた。
そして静かに着物ごしに肩を噛む。
優しい風が二人の頬をなで、二人の存在を確認しているかのようだった。
包まれたぬくもりを確認するように、少しの間二人はそうしていた。