第4章 幸村精市
私は今とても好きな人がいる。でもきっと好きになっちゃいけない人なのだ。
その人は「美人」とか「麗しい」とか、そんな感じの言葉が似合う。でもちゃんと男の人。
好きだけど、好きになったらいけない。女の子にモテて、皆「告白してフラれた。」と口々に言うけれどそんなに軽々話す人ではないと思う。でもそういう考えのおかげで私は同じクラスだというのに授業中、後ろから眺めるぐらいしかできない。正直、簡単に話し掛けられる彼女達が羨ましいけれど、この自分の考えが変わるとも思えない。
でも今日初めてまともに話したと思う。いつも緊張してYESかNOを首を振って表すことや「ありがとう」と小さな声で言うだけで精一杯だ。
その瞬間はいつもいつも息苦しくてたまらなくなる。
しかしそのときは突然訪れた。今週うちの班は教室掃除で、みんなだるいだとかそんなことを言っている。
「なまえさん。」
「は、はい…!」
「今日の放課後って時間空いてる?」
「…?大丈夫ですけど…?」
「よかった。帰りに話したいことあるんだけど、待っててくれるかな?」
「わかりました…」
私がそう小さく言うとその人は「ありがとう」と一言いい、微笑んだ。そのあと教室のドアに向かって行くから、部活に向かうのかと思えば、取って付けたように「教室で待っててね」といい、返事をする間もなく行ってしまった。
「なんの話してたの?」
そう聞いてきたのは一緒の班の女の子だ。ちなみにこの子が班長。この子は仁王くんが好きらしくて、いつも彼女の「今日の仁王くん」が始まる。その日に見た仁王くんのことを話すのだ。よく毎日違う面が見つけられるなと感心さえする。
「なんか放課後残ってって…」
「へぇーよかったじゃん!」
「え?」
「だって、やっとなまえの片思い 叶うかもでしょ?」
その一言がなんとなくストンと胸に落ちたと同時にそんな漫画みたいな展開になるわけないと思うが、とても緊張してきた。
落ち着こうと思って掃き掃除を始めたら、心なしかいつもより綺麗になった気がする。
「今日部活早めに終わるらしいよ。頑張ってね!」
「うん…!」