第1章 【黒子】ボク、本当は。
頭で強く助けを求めた。次の瞬間。
ガッ!
という大きい音とともに、私の腕を掴んでいた男の手が離れた。
同時に、反対側の手が、さっきとは比べるまでもなく優しく…けれど力強く、茂みのほうに引き寄せられる。
転がっていったバスケットボールと、視界の端にうつる水色の髪。
『黒子くっ』
「シ──────ッ。静かに」
軽く口を抑えられ、私は黒子君の言う通りに黙る。
男達はしばらく私を探しているようだったけど、こんなに近くにいるのに結局見つからなかったらしく、「くそっ!」という声とともに、去っていった。
「はい、もういいですよ」
『黒子くっ、あの、えっと…えっと、』
まだ体に少し残っている恐怖と、助かった安堵感から、私はうまく言葉が出てこない。
「大丈夫ですか?」
『うん…。えっと、助けてくれて、ありがとう…』
「いいですよ」
そう言って黒子君は一瞬笑って…すぐ、険しい顔つきになった。
「でも、ボク少し怒ってます。あんな人達に、簡単に触らせて。なんのためにボクが毎日、一緒に帰ってる思うんですか。暗くなってからは危ないんですよ?」
『ご、ごめんなさい…』
「わかってくれればいいんです。ボクがこんなに怒ってるのは、他の理由が大きいですし」
『他の理由…?』
自分では思いつかなくて、私は首をかしげた。
「はい。…正直、もう我慢できないんです。悠紀さんのこと、独占したくてしょうがなくて。さっきので、余計にそう思いました。だから、あの人達にはかなりムカついてます」
自分で聞いたことだけど、まさかいきなりこの話に飛ぶなんて思ってなくて、心臓がドクッと大きく脈打った。
急に意識しだして、顔が赤くなる。
だって、黒子君の顔が、今まで見たことないくらい、「男の子」だったから。
「返事はまだいらないなんて、カッコつけたこと言いましたけど、本当はそんなに余裕ないんです。あなたのことを考えると、ボクはいつもそうだ」
「ねえ悠紀さん。もう答えは決まっているんでしょう?」
「早くボクに、あなたを抱きしめる権利をください」
END