第5章 食卓を囲んで
脳裏から消えない記憶にひそりと眉間を寄せながらも、ほどなく仲間達をそれぞれの室へと案内した、その…最後……。
意図的であったか、無意識か、最後に案内することとなった薬研に蜂須賀が室を示した。
「薬研、ここがお前の部屋だ」
「ああ、わざわざすまないな。蜂須賀の旦那」
軽く手を上げて礼を示しながら、薬研は中へと歩を進める。
その姿を目で追いながら、蜂須賀は伏し目がちに足元へと視線を落とした。
「いや……それより、薬研」
「何だ?」
「あまり主を軽んじるな」
「俺は大将を軽く見てなんざいねえよ」
見目は少年。
しかし人間よりもずっと永きを渡り、その内実は…戦場育ちという薬研は特に、見目にそぐわぬものを有している。
そんな少年の、はっきりとした答えが返るのに、蜂須賀は、
「ならば良い」
短く呟き様、足早に背を向けた。
薬研が主を軽んじる…あるいは貶める、そのような者ではないと、蜂須賀も頭の中では分かっている。
分かっているはずなのに、言葉が勝手に口を突いた。
その理由を、蜂須賀は知らない、分からない。
気づかぬ間に、無意識に。
しかし蜂須賀のそれは、俗に言う『牽制』というものに、酷似していた。
やっと前を見て。
そうして歩き出した…少女…己の、主……。
それを、無遠慮な言動で傷などつけさせるものか。
初期刀にして、近侍。
だから己は彼女を守る。
守るべき、存在……。
ただ、それだけ……。
「それだけだ」
静かに嘯いて、役目を終えた蜂須賀は主の室へと足早に踵を返したのだった。