第12章 絡まった想い[下]
バタンッ...
抵抗虚しく無情にも追い出された私たちは、閉まった扉を呆然と見つめていた
先ほどの雨宮君の表情が脳裏に焼きついて離れない
(本当に、このままでいいんだろうか...)
まだ心臓がバクバクと激しい音を立てていた
「...葵、離せよ」
「ご無礼を、申し訳ございませんでした...」
力強く拘束されていた腕がするりと解放され執事さんは深く頭を下げる
1人で私と武本君を拘束するなんて...
ビクともしない、ものすごい力だった
男の武本君がいても少しの抵抗しか出来なかったし
この人の華奢な体のどこに、そんな力があるんだろう
「ムカツク...」
頭を下げる執事さんに背を向けたまま武本君が小さく呟く
執事さんが顔を上げて武本君に何か言おうと口を開いた
「駿さ...」
「葵は悪くない...。璃央が悪いわけでも、恵が悪いわけでもない」
武本君の握られた拳が震えているのを見て、執事さんは口を噤んだ
「でもさ...ムカツクよ。素直に喜べるわけないだろ...。恵と璃央は...俺の親友なんだから」
幼い頃から仲がよくて、特に武本君と雨宮君はずっと一緒だった
雨宮君と璃央ちゃんの事を深く理解してる武本君だからこそ、納得出来ないんだろう
「葵...」
「はい」
「俺はお前を信頼してる。主人に忠実で完璧な執事だ。でも...、お前は心が無いわけじゃないだろ?主人が...璃央が傷つくと分かっている事でも、お前は何も言わずにただ従うのか...?」
武本君の真っ直ぐな言葉に、執事さんは僅かに瞳を揺らした
一瞬執事さんへと切なげに視線を向けた後、武本君はゆっくりと歩き出した