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薄桜鬼~いと小さき君の為に~

第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~


宿に着き部屋に通されて襖を閉めた途端、俺は無意識に時尾を抱き締めていた。

「……斎藤さん?」

時尾は戸惑ったように俺の名前を呼んだが嫌がる素振りも無く、俺の腕の中に身体を預けている。

「あんたが居なくなったと聞いた時……心臓が止まるかと思った。
 ……無事で良かった。」

抱き締める腕に力を込める。

「…………っ」

時尾の肩が僅かに震えた事に気付き、その顔を覗き込むと時尾の瞳からは涙がぽろぽろと零れ落ちていた。

初めて見る時尾の涙に驚き

「何故涙を流す?どこか痛むか?」

慌ててその様子を確認すると「違います」と今度は時尾の方から身を寄せて来る。

「男の人に触れられる事なんて苦痛でしかないと思っていたのに、
 相手が愛おしい人だとこんなに幸せなんだって……
 嬉しいんです。」

時尾の言葉に俺は息を飲んだ。

そして恐る恐る問い掛けてみる。

「……今、俺の事を愛おしい…と言ったか?」

「……はい。」

「あんたは俺の事を愛おしいと思ってくれているのか?」

「はい。」

時尾は見紛う事無く頷いてくれた。

「ああ……」

俺は安堵と歓喜の混じった溜め息を吐いて、もう一度時尾の身体を抱き締める。

「俺も……あんたが好きだ。愛おしくて堪らない。」

「斎藤さん………私もあなたの事が好きです。」

時尾の両腕が俺の背中に回され、力強く胸に顔を埋めて来た。

もう抑え切れない衝動に駆られた俺は、意を決して時尾に告げる。

「……く……口付けても…良いだろうか?」

その言葉に時尾の頬が紅く染まった。

きっと俺の顔も同じだろう。

時尾よりも紅くなっていたかもしれない。

「……はい。」

承諾を得た事に安堵して一瞬触れるだけの口付けを落とすと、時尾の目は見開かれたままだった。

その大きな瞳に映る自分の姿に動揺し、俺は掠れた声でもう一度告げる。

「目を閉じてくれないか?
 俺の淫らな欲望を見透かされているようで…
 何も出来なくなってしまいそうだ。」

時尾の目がそっと伏せられたのを確認してからまた口付ける。

今度は深く長く唇を合わせた。
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