第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
暫く後、副長が手配した女物の着替えが届けられた。
おそらく副長馴染みの芸妓にでも依頼したのであろう。
その着替えを持つと、俺は時尾の手を引いて風呂場に向かう。
「始めに…自分で出来る事と出来ない事を教えて欲しい。」
俺の問いに
「大抵の事は自分で出来ます。
ただ、どうしても初めての場所は最初に案内して戴かないと。」
時尾はそう的確に答える。
その返事に時尾の聡明さが表れていると感じた。
「分かった。」
俺は再び時尾の手を引いて、風呂場の中を逐一案内して回った。
「では、着替えは此処に置いておく。
俺は外で待って居るから、終わったら部屋へ案内する。」
「お待たせしました。」
大して時間も掛からず時尾は風呂場から出て来た。
濡れた艶やかな黒髪に透き通るような肌の白さが際立って、俺は一瞬言葉が出なかった。
慌てて「では、部屋へ…」と時尾の手を取った時に、ふと彼女の白い首筋に幾つもの赤黒い痣がある事に気付く。
先程までは血に塗れていたから分からなかったのだ。
おそらくこの痣は身体中にあるのだろう。
拉致されている間に凌辱されたのだと容易に想像が付いた。
盲目の身で複数の男から受けたであろうその行為はどれ程の恐怖だったろうか……。
佐伯が必死に妹を救おうとした事、兄が死んだと聞かされても動揺すらしなかったのに、総司の「襲う」という言葉には敏感に反応を見せた事……全てに合点がいった。
時尾を離れの部屋へ連れて行き、敷いた布団に寝かせる。
「今日はゆっくり休むといい。
俺は部屋の外に居る。何か有れば呼んでくれ。」
時尾は安心したようにこくりと頷いた。
部屋を出て静かに障子戸を閉める。
そして廊下に腰を下ろし刀を抱えた。
せめて…此処で預かっている間だけでも、時尾には心穏やかに過ごして欲しいと願わずにはいられなかった。