第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
佐伯の後始末は山崎達に委ねて、俺と総司は屯所へ戻る事にした。
女も此処に放って置く訳にはいかず一緒に連れて行く。
屯所へ戻り報告も兼ねて指示を仰ぐ為に副長の部屋へ向かうと、其処には既に幹部が揃っていた。
局長は所用で大坂へ出張って不在であったが、副長以下、新八、左之、平助、山南さん…その前へ連れて来た女を差し出した。
「話は分かった。…佐伯の始末は付いたんだな?」
副長が俺に問い掛ける。
「はい。」
副長はその後、困ったように溜め息を吐いて女を見つめた。
「血達磨じゃねえか?怪我してんのか?」
「いえ。怪我はしていません。全て佐伯の血です。」
「で……目が見えねえってのは本当なのか?」
その言葉を聞いて総司が女の前にしゃがみ込み、顔をぐっと近付けて女の目の前で手をひらひらと振った。
「多分…そうだと思う。……ほら。」
女は全くの無反応だ。
「大体こいつは誰だ?何か話したのか?」
「いえ。何も…。」
平助が「口もきけないのかなあ…?」と心配そうに女に近付くと突然
「話は……出来ます。」
女が静かな調子で喋り出した。
女は佐伯時尾と名乗った。
俺が斬った佐伯の妹だった。
長州に居る親許から無理矢理京へ連れて来られ、妹を人質に捕られた佐伯は仕方無く間者として新選組に潜入したらしい。
そして自分の素性が俺達に知られた事を覚って、妹を救うべくあの宿場へ戻ったのだが逃げ切る前に俺と総司に見付かったのだ。
「兄は……死んだのですか?」
感情を顕にせず、抑揚のない声でそう問う時尾に俺の胸が少し痛んだが
「ああ。佐伯の間者になった境遇には同情するが、
俺達には俺達の事情があるんでな。
恨むなら指示を出した俺を恨んでくれ。」
まるで俺の心境を察したように副長がそう言ってくれた。
「兄さんの骸は今頃俺達の仲間がちゃんと寺に葬ってる筈だ。」
左之が申し訳無さそうに副長の言葉に付け足す。
「……そうですか。」
それでも尚、時尾は泣きもせず怒りもせず、無表情のままだった。