第6章 愛しすぎている~風間千景編~
やはりお前を迎えに来るべきだったのだろうか?
いや、それ以前に最初から無理にでもお前を連れ去れば良かったのか?
そうすれば、お前は死ぬ事は無かった。
……しかし、それで有希は幸せだったのだろうか?
俺の元で生き続けるのか、例え死んでしまうとしても心から愛する男の側に居たかったのか………
どちらが有希にとって幸福だったのか、到底俺には分からぬ。
「有希は……幸せだったのだろうか?」
自分でも思いがけず声に出していた。
その俺の言葉に、土方が一つ息を吐いてから答えた。
「有希の腹の中に……総司の子供が居た。」
俺は小さく息を飲む。
「お前の所へ行くべきだったのか、
此処に残って総司と添い遂げるべきだったのか……
どっちが有希にとって良かったのかなんて俺にも分からねえ。」
土方は屈み込んで有希の墓石を慈しむように見つめた。
「只、有希は…総司を愛して、総司に愛されて……
腹の中にその子を宿して……
最期の瞬間まで幸せだったんじゃねえか…と俺は思っている。」
刹那、強い風が吹いて墓石の前の献花を大きく揺らした。
「………沖田が見付かったら……」
俺が絞り出すような声で言うと、土方の肩が小さく弾ける。
「俺が……礼を言っていたと伝えて欲しい。」
俺は敢えて『見付かったら』という言葉を使った。
『帰ったら』でも無く『戻ったら』でも無く、『見付かったら』だ。
沖田がどんな状態であろうと、一言礼を言いたいと心底思った。
「何に対する礼なんだ?」
俺を真っ直ぐに見据えて土方が問う。
「自分でも良く分からぬ。
そうだな……お前の言葉を借りるとすれば…
有希を幸せにしてくれた事に対する礼だ。」
「……分かった。必ず伝える。」
暫くの間の後、俺は墓石から土方へ視線を移して聞いた。
「お前達は……新選組はこれからどうする?」
「俺達は何も変わらねえ。
これ迄通り、自分達の信念を貫き通すだけだ。」
「そうか……。
それならばまたいつか、お前と相見える時が来るかもしれんな。」
僅かに口の端を上げてそう言うと
「もう、お前と刀を交えるのは御免だが……
そうなっちまった時は容赦はしねえ。」
土方も不敵に笑った。