第6章 愛しすぎている~風間千景編~
京に到着するとその足で新選組の屯所に向かった。
隊士の奴等は突然の俺の訪問に色めき立ったが、呼ばれて出て来た土方は俺の顔を見るなり苦痛に顔を歪め……そして無言のまま頭を下げた。
その土方に連れられて俺は今、有希の墓前に立っている。
立派な墓石に、供えられたばかりだろうか…瑞々しい献花が溢れている。
常に誰かが参ってくれているのだと容易に想像出来た。
「風間……お前には何と言って詫びればいいのか……
本当に言葉もねえ。」
そう言って土方はまた頭を下げる。
「お前に詫びて貰った所で有希は戻らぬ。
だから俺に詫びる必要など無い。」
俺は頭を下げたままの土方に目もくれず答えた。
今はもうこの世に有希は居ないのだという事実だけが俺に重く押し掛かっている。
有希が死んだ経緯のあらましは天霧から聞かされてはいたが、その後の動向は知る由も無い。
なので必然的に土方を問い詰める事になった。
「有希を殺した下手人はどうした?」
「その始末は…もう済んだ。」
「誰が始末を着けた?」
「………………………。」
何故か土方は悲しそうな目をして黙り込んだ。
「有希と暮らしていた男………沖田総司…といったか?
そいつが始末を着けたのだな?」
「……ああ。」
「沖田はどうした?
労咳がかなり悪化していると聞いたが……。」
「それが……行方が分からねえ。」
「何だと……?」
「有希が死んだ夜、屯所を脱け出して勝手に仇討ちを終えた後
何処かに行っちまいやがった。
有希と暮らしていた庵に一度戻った形跡はあるんだが……。
その後、手を尽くして探しちゃいるがとんと行方が掴めねえ。」
淡々と話してはいるが、土方の言葉からは心配で堪らないという匂いが漂っている。
………もう、生きてはおらぬかもしれんな。
そう思ったが敢えて口には出さなかった。
そんな事は俺が言う迄も無く、こいつらだって感じている筈なのだから。
無言のまま、俺はまた有希の墓石を見下ろした。