第6章 最終話
――――ぴちゃり、くちゅり、ローションとセバスチャンさんの手が立てる音なのか、セバスチャンさんの舌が立てる音なのか、もう判別できないけど、とにかく脳髄を刺激する淫靡な音が、殺風景な部屋に響く。いや、部屋に響くだけなら、聴覚から脳を刺激されているだけなら、まだ良い。その吐息が、触れてくる感覚が、私の中にあるおかしげなスイッチを、一つずつオンにしていくような感覚。普段は、その幾重にも頑丈に施錠された錠前が、一つずつ外されていくような、そんな感じ。
先ほどのセバスチャンさんの言葉から数分後なのか、或いは数十分後なのか、理性が融解してきた私には分からないけれど、この刺激にも、悪い意味で慣れてきた。
『固体は、一定の温度になると、液体になります。個体が液体に変化する温度を、融点といいます。』
昔に聞いた授業内容が、何の脈絡も持たずに、ふいに脳裏に浮かんだ。それが何故かはわからない。それほどまでに、私の思考回路はもう混線状態ということなのかな。わからない。でも確か、面白くも何ともなかった理科の授業。教師も、だるそうに教科書を読み上げていただけだった気がする。
個体は、一定の温度になると、液体になります、か。あぁ、そうか。じゃあ今、私の中から溶け出して流れようとしているのは、融点を超えた私から零れだそうとしている液体なのか。私の一部は固体を保っていられなくなって、だから融けだして、私から流れていくのか。