第6章 最終話
お風呂はさほど広いわけではないけれど、よく掃除されている印象。というか、使用感があまりない。浴槽の蓋の上に、バスタオルとタオル、女性もののシャンプーの袋が置いてあった。薬局とかで配られている、試供品セットのようだった。ボディソープは、私が使ったことのないメーカーのものだったけど、このボトルをそのまま使わせてもらおう。
できるだけ何も考えないように、シャンプーをして、体を洗う。ボディソープはいい匂いがした。ラベルによれば、バラの香りだそうだ。セバスチャンさんもこれを使っているのかな、とか余計なことを考えてしまったがために、妙にのぼせてしまった。手早く体をふいて、髪から水分を拭き取る。ドライヤーなんてあるのかな。もしかしたら、男性一人暮らしの部屋だし、そんなものはないかもしれない。仕方ないかな、なんて思いながら、歯磨きセットもきっちり使わせてもらった後、お風呂場を出る。
「えっと、出ました。お風呂に歯磨きセットまで貸してくれて、ありがとうございます。おかげさまで、すっきりしました。」
すっぴんは恥ずかしいけれど、薄暗い感じだから、そんなに見えないものと信じたい。
「髪が濡れていますね。」
セバスチャンさんは、それだけ言うとこちらに歩いてくる。そして、洗面台の下の扉を開けて、ドライヤーを取り出した。
「乾かしましょうね。」
「あ、ありがとうございます。」
ドライヤーを受け取ろうと手を出したが、その手には何も乗らなかった。代わりに、もうドライヤーのモーター音が聞こえる。
セバスチャンさんの大きな手が私の頭を撫でる。いや、正しくは髪を乾かそうとしてくれているんだろうけど。無駄な肉付きのない大きな手が、わしゃわしゃと髪をほぐしていく。
「え、そんな!自分でやります!」
「サービスですよ。お気になさらず。」