第6章 最終話
トイレから出た私は、時計に目をやる。―――2時20分?
「よ、夜中?」
びっくりした。まぁ、外も真っ暗なのだから、当たり前といえば当たり前。私は結構な時間眠っていたらしい。
「ええ。よく眠っていましたよ。」
セバスチャンさんは自分が眠りたいのに、このベッドを私に使わせてくれていたんだろう。
「ご、ごめんなさい!セバスチャンさんのベッドなのに!私が占拠しちゃってて……!」
お店に連れて行ってもらった挙句に酔いつぶれ介抱され、さらに結構な時間に渡りベッドまで独り占めするなんて、これはいくらなんでも酷い。しかも、また飲食代金も支払っていない私。ここまでくると、ある種の無銭飲食者ではなかろうか。
「構いませんよ。」
セバスチャンさんは事も無げに答えてくれるが、構わないはずがない。少なくとも、セバスチャンさんの睡眠リズムは乱している。
「すみません、すぐに退いて、帰りますから!」
もう、どうしていいやら分からない。
「夜中に女性1人で帰すわけにはいきませんし、結衣さんは帰り道も分からないでしょう?」
「う……。」
確かに。この暗い中を迷っては話にならない。タクシーを呼ぶ手もないわけではないけれど、この夜中につかまるかどうかも怪しい。まさか、この期に及んでセバスチャンさんに送ってくれなんて、口が裂けても言えない。
「じゃあ、その、床に座らせて、朝まで待たせてください。日が昇ったら、自分で何とかして帰りますから。」
こんな恥ずかしいことはあるだろうか。自分で自分が情けなくなる。どうして、1時間ぐらいで目が覚めなかったのか、自分。そのまま、立っていた床に腰を下ろす。フローリングの冷たさが、じんわりと伝わってくる。思ったより、これは冷えてきついかもしれない。
「冷えますよ、そんな場所では。ベッドへどうぞ。」
セバスチャンさんは、椅子に腰かけたまま、ベッドを使うように促してくれる。綺麗に調えられたあったかいベッドは有り難いけど、ここは我慢。セバスチャンさんだって多分寝てないんだから。
「いえ!もう、私、甘え過ぎですから……!」
「そんなところで寒さを我慢しても、得るものは風邪症状くらいですよ。」
ごもっとも。言い返せない。
「でも……!」
情けない。本当にない。