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ハコの中の猫 【黒執事R18】

第5章 第5話


「何を考えているのですか?」
 セバスチャンさんの声から、優しい温度が次第に褪せていく。
「う……。」
 私は俯いたまま。
「言葉にしなければ伝わらないこともあります。結衣さんは、あまり自分のことを話したがらないようですが。」
 声の温度はそのままに、セバスチャンさんは私に言葉を投げかける。分かってる。セバスチャンさんの言っていることはご尤もだけど、私の卑屈な胸の内を言葉にしたところで、きっとセバスチャンさんは不快な思いをするだけ。……いや、違う。私は、釣り合わないと分かっていながらも、どこかセバスチャンさんの傍にいたくて、自分に関することは何も言わないことを選んでいるのかもしれない。
 頭が軽くふらふらしてきた。私は、行儀が悪いと知りながらも、グラスに入ったワインを景気よく飲み干して、何とかセバスチャンさんの目を見る。その様子を見て、セバスチャンさんは一瞬だけ眉を上に動かした。
「前も言いましたけど、セバスチャンさんは……、ちょっと狡いです。」
 俯きそうになる視線を全力で正面に戻しながら、口を開く。
「と、いうと?」
 セバスチャンさんは、試すような目線を私に向けてくる。
「私なんかが、セバスチャンさんと釣り合わないって、分かってて、こうやってお店とか映画とかに連れてきてくれたり、この間なんて、その、……。」
「嗚呼、キスですか?」
 間髪入れずに、事も無げに。顔だけじゃなく全身が発火しそうなのに。あれは夢じゃなかったんだな、なんて頭の片隅で考える。……まぁ、この歳になってキスぐらいでこんなにも心を乱してること自体が、可笑しいのかもしれないけど。でも、それを知った上で、私を試すようにして遊んでいるのなら、それは嫌だ。傷つく。
「………そうやって、私みたいな平々凡々な人をからかって、面白いですか?」
 私は努めて冷静に。
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