第5章 第5話
なんか難しそう。そもそも、ライトボディとかフルボディなんて言葉も初めて聞いた。しかも、ワインなんてお高いイメージがあって、庶民な私からはなかなか手出しできないイメージが強い。きっとセバスチャンさんはこういうお洒落な雰囲気にも慣れているから、こういうお洒落なお酒にも慣れているんだろうけど、私は違う。案の定すっかり気後れしてしまった。そんな私の様子が伝わってしまったのだろう。セバスチャンさんは、そんな私を気遣うように、優しく微笑みかける。
「さて、私の話ではお腹は膨れませんね。メニューの中で、好きなものや苦手なものはありますか?」
正直、カタカナばかりのメニューで、見たこともない名前のものが多かったので、エビとかサラダとか、知っている単語から類推するしかない情けない私。こういうところでも、何というか、住む世界の違いを思い知らされる。私はたぶん大丈夫です、と曖昧な返事をするぐらいしかできなかった。
セバスチャンさんは店員を呼んで、何種類かの料理をオーダーした。ほどなくして、小エビの乗ったサラダと、芸術的なまでに淡いピンク色の生ハムと、ワインがやってきた。ワイングラスは、私が今まで見たワイングラスのうちで、もっとも薄くて繊細そうな作りをしていた。少しでも余分な力を入れたなら、いとも容易く壊れてしまいそうなぐらいに。
セバスチャンさんに勧められて、ワインに口を付ける。
「あ、甘い……美味しいです。」
実は、以前にもワインを飲んだことはあったが、どうにも美味しいとは感じられなくて、えぐみや後味の悪さだけが残ってしまい、そればかりが記憶に残ってしまっていた。
「それは良かった。ちなみにそれはライトボディですよ。一般的に、あっさりとした料理に合うものですね。まぁ、今夜は細かいことはさておき、飲みましょうか。」