第5章 第5話
「この店は、ワインがお勧めだそうですよ。」
メニューを開けながら、セバスチャンさんがゆっくりと口を開く。ワインについての知識といえば、赤ワインと白ワインがありますよ、ぐらいのものしかない私は、早くも付いていけない予感がした。
「普段、あまり飲まないのですか?」
知ったかぶりは見苦しい上に、セバスチャンさんなら私が適当に誤魔化そうとしたところで簡単に見抜いてきそうなので、正直に答えることにした。
「庶民の私には、あまり身近とは言えない感じです……。」
セバスチャンさんは嫌な顔一つせずに、メニューを指さしながら静かに話し始める。
「ワインの種類はたくさんありますが、一番わかりやすいのは、色の違いによる分類でしょうね。大まかに分けて、赤ワイン、白いワイン、ロゼワインの三種類があります。その中で最もポピュラーなのが、これ。赤ワインでしょう。赤ワインはさらに味の厚みによって分けられ、飲み頃となる温度もそれぞれ違います。」
セバスチャンさんは、メニューにある二つのワインの写真を順番に指差す。
「よく見てください。同じ赤ワインでも、色が違うでしょう?」
言われた通り少し目を凝らす。やや薄暗い店内なので分かりにくいが、確かに微妙に色の濃淡が違う。
「ライトボディとフルボディの違いですね。同じ赤ワインですが、飲み頃の温度も異なりますし、相性の良い料理も異なります。」
「へ……へぇ、そうなんですか……。」