第5章 第5話
平凡な日常はあっという間に過ぎ去り、金曜日を迎えた。幸いにも、急な仕事が入ることもなく、待ち合わせの場所には定刻に着くことができた。セバスチャンさんはもう待ち合わせ場所に立っており、申し訳なく感じた。もしかしたら、待っていてくれたのかな。
「すみません、お待たせしました。」
「いえ、構いませんよ。レディを待たせるわけにはいきませんから。」
「……。」
セバスチャンさんは爽やかに言ってのけるが、言われた方の私はどう反応していいかわからないぐらいにこそばゆい気持ちになってしまう。それとも、イギリスでは、とりあえず異性に対してはまずこういう言葉を言うものなのだろうか。ふと考えてしまうが、浅学な私には分かるはずもない。
「別に、私とて誰彼かまわず言っているわけではないですよ。」
「!……へぇ、そうなんですか。」
相変わらず、私を驚かせるようなタイミングで、言葉が滑り込んでくる。じゃあ誰になら言っているのか、と尋ねてみたい気もしたが、そこまでを尋ねる勇気はない。何となく、そこへは踏み込めないような気もした。
「今日はどこへ行くのですか?」
無難な質問をする。
「お酒の飲める場所ですよ。」
あぁ、そういえば、前回の帰り際にお酒が好きかどうかなんて質問されたっけ。その時は、あんな白昼夢の後だったから、全く飲めないわけじゃないみたいな漠然とした答え方しかしてなかったような気がするけど。
セバスチャンさんが連れてきてくれたのは、駅チカにある繁華街からほんの数本通りを挟んだところのビルにある、小さな居酒屋さんだった。居酒屋といっても、サラリーマンが立ち飲みするようながやがやした感じではなく、個室がいくらかあるだけの、小ぢんまりとしたお洒落な隠れ家的なものだった。
職場の人たちと行くような居酒屋とは明らかに違う雰囲気に、少し驚いたけれど、それより気になるのは、やっぱり、どうしてセバスチャンさんが私をこんなふうに誘ってくれるのかということ。こんなに異性にモテそうな外見なのだから、セバスチャンさんから誘わなくても、女性が向こうからやってきそうなのに。
セバスチャンさんは、そんな私の考えなんて知る由もない。