第5章 第5話
―――!セバスチャンさんだった。仕事で疲れ、働きの悪くなった脳の中で、昨日の出来事が一気にフラッシュバックする。その圧倒的な刺激量に、目がチカチカするぐらいだった。完全に忘れていた、―――いや、私の中で蓋をしていた鮮明過ぎるほどの記憶が、体の奥で生々しい熱を伴って再生される。その熱に呑まれないようにすべく、メールにあった質問内容を反芻する。……金曜日の、予定?
渚がいなくなってから、職場内であまり飲みに行こうなどといった話は聞かなくなった。以前はもっと、同い年前後の人たち同士で、よく誘い合って居酒屋などに行っていたのだが、ここのところ、そういう動きがめっきり減ってしまった。特に、比較的若い年齢層の、女性となると、全く聞かないというレベルになってしまっている。もともとそう大きな規模の職場というわけでもないのだし、仕方のないことなのだとは理解できるが、その理由には間違いなく渚の存在があることを思うと、複雑な気分になってしまう。職場が別の友達もいるが、いつもお互い休みが合うわけでもないので、そうそう会えるものでもないし。まぁ、有り体に言えば、少し寂しい気持ちはしていた。
でも、どうしよう。正直に答えてしまってもいいのか、迷う。しばらく迷ってみたが、結論は出そうにない。冷静に考えて、セバスチャンさんは底の見えないところがある。何を考えているのか、読めないところがあるし、冗談と本気の境目が分からないことだってままある。でも、だからこそもう少しだけ知りたいなんて思ってしまう自分もいるのだ。それに、セバスチャンさんみたいな何でもできそうな人が、私なんかを本気で相手にするなんて、到底思えないし。
『こんばんは。
お仕事進んでいるみたいで、よかったです。
今週の金曜日は、特に予定ないですよ。
急な仕事が入らなければですけど……。
今度も、セバスチャンさんのお仕事関係ですか?』
返信は早かった。
『返信ありがとうございます。
いえ、今回は私の仕事とは関係ありませんよ。
おいしいお店を見つけましたので、是非結衣さんをお誘いしたいと思いまして。』
おいしいお店、ということは、食べ物屋さんかどこかだろうか。更に返信してみたが、詳しくは教えてくれなかった。待ち合わせ場所も、今回は仕事帰りということもあり、さほど遠くない駅だった。