第4章 第4話
「……ぅ、ん、いえ。」
良かった。声は出るし、頭も動かすことができた。セバスチャンさんと目を合わせる。
「きっと西洋人にとっては、こういうのも挨拶なんです、よね?」
さすがのセバスチャンさんも、一瞬だけポカンとした表情を浮かべる。よし、一矢報いることができたかな、なんて思ったのも束の間。セバスチャンさんは妖艶に目を細める。
「さぁ、それは時と場合によると思いますが―――――」
「ンっ―――――!?」
くちゅくちゅと、昼間にしては明らかに度が過ぎた水音が、辺りに響く。もうこれは、少女漫画に出てくるような可愛らしい『キス』ではない。何かを貪るような行為、だった。一旦体を離そうにも、私の上半身は既に固定されている。顔もまた然り。
「ン――――、―――――!」
そんなことを考えている間に、私のからだはどんどん力が入らなくなってくる。頼みの両腕は、重力に逆らうことすらできずに、だらしなくぶら下がっているだけ。
「っぷ、は―――――!?」
口を離してもらえたところで何か言おうとする。けれど、声が言葉になる前に、再び唇を重ねられてしまう。何回かこんなことが続くと、頭の中で私の言葉が拡散してしまい、もう何を言いたかったのか、その断片すらも見つからなくなる。
「―――――?」
私の口の中で、柔らかいものが動く。あぁ、これは――――。口の端から唾液が垂れて、床に落ちていくのが分かる。そんなことを感じている間にも、私の思考回路はじわりじわりとその機能を停止していく。
「気持ちいいですか?」
突然口を離されて、尋ねられる。頭がボーっとして、私の口からは答えの代わりに唾液がゆっくりと流れ続ける。
「嗚呼、こんな短い時間ではまだ、分かりかねますか?」
低く笑う吐息の後、再び深く唇を重ねられる。私のからだが震える。ゾクリゾクリとした正体不明の感覚が止まらない。