第4章 第4話
――――どれぐらい時間が経ったのか分からないままに、私の耳は水音だけを拾い、私のからだは正体不明の感覚に浸食され続けていた。経過した時間は五分かもしれないし、三十分かもしれない。私は渾沌とした、それでいて甘い空気の中、セバスチャンさんに与えられるものに、きっと溺れていた。
コンコン!
小気味の良い音が、部屋に響く。
ガチャリと音がして、扉が開く。セバスチャンさんはその音と同時に私の頬と唇だけを解放してくれたようで、私は必然的にセバスチャンさんの胸にもたれかかったような格好になる。
「さ、ささ、さっきは申し訳なかったです!もう一時間になりますので、お帰りの時間です!今日はご予約のお客様の関係で、延長はできませ―――――――ぶっ!!?」
……どうやら、さっきの高校生風の店員さんのようだ。
「あわわ、わわわ、しし、失礼しました!!!」
店員さんは叫ぶが、その場から立ち去る気配はない。どうやら、その場に固まっているらしい。今どきの高校生にしては、免疫がなさすぎではないだろうかと思ったが、かくいう私にも高校生を気遣うような余裕はない。私は全身ぐったりとしていて、面白い位に力が入らない。
「さて、時間切れなら仕方ありません。立てますか?」
先ほどの激しい、貪るような行為は嘘であったかのように、私を優しく立たせてくれる。私は、どう声に出していいのか分からず、こくりと首を縦に振った。
帰りの車の中、セバスチャンさんはここでも優しく私に話しかけてくれた。今度の週末も空いていますか、お酒などは好きですか、と。
やっぱり、先ほどの貪るような行為は全て私の夢だったのか。私の気持ちは、ふわふわと宙に浮いている。西の空は、ゆっくりとその色を夕焼けに染め始めていた。