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ハコの中の猫 【黒執事R18】

第4章 第4話


 セバスチャンさんは、ほんの一瞬だけ驚いたような顔をして、すぐにまたさっきの妖艶な表情に戻った。
「おや、結衣さんは、私のことをそんな風に見てくれていたのですか?」
 セバスチャンさんの妖艶な笑みが深くなる。それはまるで、空が日没から夜に、その色を変じるかのよう。私は、セバスチャンさんの表情から目が離せなくなっていた。不意に、右手首の感触がなくなった。それを脳が感知した次の瞬間、新たな刺激を感知する。私の頬に、そのラインをなぞるかのように、温度の低い指の感触。私はまた呼吸を忘れる。その指は、一旦首筋へと下り、甘い余韻を残す。そして、再び顎から頬へとその指を滑らせる。いよいよ私はセバスチャンさんを直視できなくなり、俯く。もう、セバスチャンさんの表情は見えないけれど、何となく、セバスチャンさんはわらったような気がする。きっとセバスチャンさんの表情は、夜から真夜中に変わったんだろうな、私は頭の片隅で、そんなことを考えていた。
 滑らかな指先が、私の口元に触れる。私は反射的に歯を食いしばり、追って唇も固く結ぶ。背中に片腕を回される感触。もう片腕で左頬を手のひらで包まれる。私は、顔を上げることなんてできず、セバスチャンさんの胸のあたりばかりを見つめていた。
「クス、ええ、とても可愛らしいですよ。」
 右耳がジンジンする。耳から伝わった刺激は、きっと脳を支配して、腰のあたりにまで可笑しな信号を伝えているに違いない。ゾワゾワする。耐えられない。
「ぅ、んっ……?」
 普段の自分とは思えない声が、私の喉笛を通って、唇から落ちるようにして出てしまう。落としてはいけないものを落としてしまったような気分になってしまう。
「どうしましたか?」
 セバスチャンさんがわざとらしく尋ねてくる。絶対、分かっていてやっている。このままやられっぱなしというのも、ちょっと悔しい気がしてきた。なけなしの勇気で少しの無謀に挑戦する。
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