第4章 第4話
私と三十センチぐらい間を開けて床に座っているこの距離も、私が口を開くことができない大きな原因の一つだと思う。セバスチャンさんは、分かっていてからかっているのかな。そういえば、ここは、この部屋には私とセバスチャンさんしかいない。店員さんは入ってくるかもしれないけど、それだって特に用事がなければほとんど入ってこないだろう。ここはプライベートルームだし。そう思うと、緊張してきた。いや、この緊張は、私の自意識過剰から来ているって分かってるけど、それでもあんな風にからかわれた後なんだから。
「そ、そうだ!そういえばノワールがいなくなってこの部屋に猫ちゃんがいなくなっちゃいましたよね折角猫カフェに来たのにこれじゃあ全然猫カフェの意味無いですから私店員さんのところに行って何匹か猫ちゃんと一緒に遊ばせてくださいって注文してくるのでセバスチャンさんはそこでコーヒー飲んでてくださいすぐに戻ります!」
下手糞な役者が台詞を一気に棒読みするように、あらぬ方向を見ながら一気にまくし立てる。そのまま勢いに任せて立ち上がろうとした瞬間、私の右手首にひんやりとした手の感触。
壊れた玩具のように、ぎこちなく右下方向へ目をやる。
「私と二人きりが、そんなに嫌ですか?」
―――声は切なげに掠れ、憂いを帯びていた。けれど、その表情には、セバスチャンさん独特の妖艶さが滲んでいた。
「それとも……意識してくれているのでしょうか?」
―――何もかもが、見透かされている。もう、それならば。
「や、やですねー。さっきから私のこと、からかい過ぎですよ~?私なんかがセバスチャンさんと釣り合うわけないって分かってて、そういうこと言うのって、いくらセバスチャンさんの見た目が良くておまけに何でもできるからって、狡くないですか?」
きっとこの掴まれた右手首は、私の意志ではどうしようもないのだろう。それなら、もう、話をするかしかないんだろうな。