第4章 第4話
―――――――――あ……
痛みと熱に備え、私は反射的に固く目を瞑り、下を向いて体を固くする。
ドン、鈍い音が聞こえる。
『カンッ』
何かがぶつかった音?
「いたたたたた……。」
店員さんの声。
あれ?痛みと熱さ、遅くない?
恐る恐る目を開けて顔を上げると、そこには左手にお盆を乗せ、さらにそのお盆の真ん中にコーヒーカップを乗せて私のすぐ目の前に立膝をついてしゃがんだ、セバスチャンさんの姿があった。
「お怪我はありませんか?」
「あ、え……?」
セバスチャンさんが更に私に顔を近づけてきている!?
「――――――!!」
人間、本当に驚いたときは、声なんて出ない。
「クス、彼氏とは、彼女を守」
「あああああああああああああ!!!!!!すみませんでしたああああああああああああああああ!お怪我はありませんでしたかああああああ!!!!!!?????」
―――――やっと我に返った店員が、大騒ぎを始めた。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……!!!」
「残念。邪魔が入りましたね。」
「!」
セバスチャンさんは、私の耳元で、小さな声で囁く。声よりも、その吐息が耳に当たることが、どうしようもないぐらいに、私を切ない気持ちにさせる。
「大丈夫ですが、足元には気を付けてくださいね。」
セバスチャンさんは、お盆の上からコーヒーを取り、笑顔でお盆だけを返す。そのお盆には、コーヒーが一滴も見当たらなかった。その光景に対して当然抱くべき違和感は、未だ残るどころかさらにその熱を増す耳の熱さでかき消されたのだ。
「あ、ああ、あの、そそ、その、おっ、お邪魔しました!!」
店員さんは、逃げるようにして退室していった。
私はそれから数秒間フリーズしたままだった。セバスチャンさんがテーブルにコーヒーを置く音でやっとそのフリーズが解け、もはや忘れていた呼吸を再開する。
「あ、ああ、あの、ありがとう、ございましたっ。」
何だか、あの店員みたいな喋り方になっている私。
「いいえ、構いませんよ。」
私とは対照的に、セバスチャンは非常に落ち着いている。いや、セバスチャンさんが焦ったところなんて見たことないし、想像もできないけど。
…
……
………沈黙が重い。