第4章 第4話
はい?
「あぁ、ノワールさん……!」
この黒い猫ちゃんはノワールという名前らしい。いや、問題はそこじゃない。ノワールは悲鳴をあげて、私に擦り寄ってきている。
「……?」
セバスチャンさんが私に、というか猫ちゃんに近付くと、猫ちゃんはうろたえたように私の後ろに隠れてしまう。どうやら、この猫ちゃんはセバスチャンさんが怖いよう?それで、困った猫ちゃんは私に助けを求めてきたみたいで。ん?っていうか、猫カフェの猫ちゃんは、よほどのことでもない限り、大抵は人慣れしてるものなんじゃないの?
私が床に座ると、ノワールは私のややタイトなスカートに無理矢理頭をねじり込ませてくる。
「ちょっ……!」
どんだけセバスチャンさんが怖いんだ、この猫は。猫は、入らない隙間に、まだ果敢にも頭を突っ込もうとあくせくしている。私は仕方なくノワールを抱っこする。猫は私に顔を押し付けて、決してセバスチャンさんを見ようとはしない。しかし、この猫の悲しいところは、私もセバスチャンさんよりも確実に弱いということを読み切れていないところにある。そりゃあ、猫にそこまで分かれと言う方が酷なのだろうけど、逃げ込む場所を大きく間違えている感が強いことは否めない。それとも、藁にもすがるような感じなのだろうか。
一方のセバスチャンさんは、猫ちゃんに逃げられてしまったことにショックを受けているのか、しょんぼりとしている。その様子が、普段のセバスチャンさんとは全然違って、なんだかおかしかった。猫ちゃんは、私の腕の中で微かに震えている。その様子が、セバスチャンさんに圧力を掛けられた時の自分と重なって、他人とは思えなくなってきて、この猫ちゃんに妙なシンパシーを感じ始めてきた。非常にどうでもいいが、壁の掲示物によればこの猫ちゃんはメスらしい。