第4章 第4話
店員さんは、自動ドアから退出するセバスチャンさんと私の背中に「ありがとうございましたー」と、爽やかに声を掛けてくれる。私の前を歩くセバスチャンさんは、もう語るべくもない。口元を片手で抑えながら、まだ笑いをこらえている。私はその様子を見て、恥ずかしいやら何やら分からない気持ちになる。セバスチャンさんに促されるままにまた車に乗ったところで、ほんの少しだけ私は口を開く。
「……我慢しないで、笑っていいですよ。」
「……いえ。失礼しました。」
多分、まだウケている。ハンドルを握る手が微かに震えているのを、私は見逃さなかった。あれ、そういえば、この車、どこに向かっているのだろうか。でも、もう聞きづらい。仕方なく、車に付属しているカーナビと、セバスチャンさんを交互に見つめる私。あれ?セバスチャンさん、窓の外をチラチラと気にしてる?お行儀は悪いけれど、シートベルトを軽く緩めてお尻をあげて、体ごとセバスチャンさん側の窓へと向き直って眼を凝らす。ショッピングモールが立ち並び、歩道に人が歩いているのが見えるだけで、さほど変わったものは見えない。けれど、セバスチャンの視線がおよそ一点に注がれているのは何となく分かる。私はそれを何とか読み取ろうとする。……?ペットショップ?ここからだとイマイチ分からないけど、ショーケースに、子犬や子猫が陳列されているのが、辛うじて見える。
「あれ、セバスチャンさん、動物に興味があるんですか?犬とか、ですか?かわいいですよね、ワンちゃ……」
セバスチャンさんは鋭く睨みつけるような視線でもって、顔をこちらに向けてきた。恐い。直感的にそう感じ、私は瞬間的に、もう動けなくなる。蛇に睨まれた蛙のようだ。セバスチャンさんの唇が動くのが、最早スローモーションに感じられる。きっと―――