第3章 第3話
「私には、愛とか恋とか、そういうのはよく分かりませんけど……私だったら、自分の感情を抑えきるなんて、多分無理だと思います。」
何の答えにもなっていないだろうが、ひとまず目を開けて、恐る恐るセバスチャンさんを見る。
セバスチャンさんは、何の温度も宿っていないような眼で、口角だけを上げて質問を続けてきた。何だろう、この圧力。
「それでは、その結果として悲惨な終末が待ち受けていたら、どうしますか?」
どうしてセバスチャンさんがこんなことを訊いてくるのかは分からないけれど、私は考える。もし、私があのお嬢様や騎士のように、身分の違う存在を好きになってしまった上に、その結末は悲惨なものであることを知っていたら、いや、悲しくもそう予感してしまったらということ?多分、身分や立場の違う恋は、想像以上に悲劇のうちに終わりやすいのだろう。冷静に考えて、そんな人間同士が触れ合うこと自体、奇跡に近いのだと思う。まさかそれが成就するなんて考えられない。
「う~ん、それでも心の中では好きとか思ってしまいそうです。まぁでも現実的には、恋愛の為に全てを投げ打つ、なんてことは出来ませんけど。でも、その、こういう考えってありきたりだとは思うんですけど、あのふたりの気持ち自体は、こう、何というか、いいものだって、思いたいな、とか。」
最後は、何だか小さい声になってしまった。それに、これじゃあ答えになっているかどうかも怪しい。またも恐る恐るセバスチャンさんへと目線を上げる。セバスチャンさんは、飲み物に口をつけて、にっこりとした笑みをこちらに向けてきた。