第3章 第3話
「当然、彼と結ばれることはありません。彼女は、主人公に身も心も捧げるつもりでしたが、それは叶わず、元の婚約者と政略結婚させられます。当時の社会背景を考えると妥当な結末でしょうが、愛してもいない男に抱かれ、身籠ることは、彼女にとって耐えられるものではありませんでした。そこで、当然のように自ら死を選ぶのですが、彼女の身の回りはいつも使用人が取り囲んでいます。その中で自ら命を絶つことは現実的に無理でした。そのまま、彼女は生きた屍のようになります。」
「ひどい……。」
「物語は、彼女が在りし頃の彼を思い出して息を引き取るところで、終わりです。」
映画の感動が、一気に吹き飛んだ気がするけれど、この結末はこの結末で、きっと一つの終わり方なのだろうと思う。でも、私はやっぱり映画版の、というかハッピーエンディングの方が好き。私のような凡人は、そりゃあ人並みぐらいの苦労しかしたことが無いけれど、やっぱり苦しい経験をしたのなら、それは、その分ぐらいは報われてほしいなんて思ってしまう。そうじゃなきゃ、悲しい。
「う~ん、ご都合主義かもしれないけど、私はあの映画版の終わり方、好きだな~。」
現実はそんなに甘くないのは百も承知だけど、そうじゃなきゃ、そう願っていないと、現実の前にどうしていいか分からなくなる。
「では、貴女なら、もしも立場や身分の違う存在を好きになってしまったなら、どうしますか?」
「―――っ。」
セバスチャンさんが、真っ直ぐに私を射抜いてくる。突然何言ってるんですか、なんて冗談で済ませてはいけない空気が、ここにはあるような気がした。
立場や身分っていうと、総理大臣とか天皇陛下とかだろうか。大企業の社長さんとかそんな感じの話?生憎、今の日本には分かりやすい身分制度なんてものは無いから、いまいちピンと来づらい。というか、恋愛経験について決して豊富であるとは言い難い私は、そんな難問をすぐに解くことができない。それでも私は、目を閉じて、必死になって自分の中で答えを探す。もしも私が、あの映画のお嬢様や騎士のように、身分の違う存在を好きになってしまったら?