第3章 第3話
気が付くと、私の目の前には紅茶の入ったカップが置かれていた。
「どうでしたか?」
セバスチャンさんは、興味深そうな瞳を、隠すでもなく私に向けてくる。そんな瞳で見られても、私の言語能力で、セバスチャンさんの期待に応えることはできそうにない。
「演技に演出に、脚本に……とにかく圧倒されました。」
「ええ。私も最初に観た時には驚きました。ですが実を言うと、あの映画の時代背景などには結構齟齬があり、史実とは合わないところがいくらかあるのですよ。例えば……」
セバスチャンさんは、静かに語り始める。時代背景におかしいところがあるなんて言われても、私にはさっぱり分からなかった。
「まぁ、単なる虚構なのですから、あまり深く追求するのも無粋ですね。エンディングは、大衆向けのハッピーエンドでしたね。」
少し、棘のある言い方のような気がする。
「当時の階級システムは、もっと絶対的なものでした。あのような個人の努力や足掻きでは、どうにもならないほどに、強固なものでしたから、きっとあの映画のようにはいかなかったでしょうね。」
セバスチャンさんは、静かな笑みを湛えながら、どこか窓の外へ視線を投げかける。
「もしかして、原作本のクライマックスは……。」
「ええ、ご明察です。現実の前に、彼らはなす術なく悲劇的な結末を迎えてしまいます。」
「えっ……。」
セバスチャンさんは、ふっと目を閉じて、飲み物に口をつける。
「嗚呼、私の口からあの物語の結末を聞くなどしては、面白くありませんね。」
私は何も発さないまま、横に首を振る。
「そうですか、では。……主人公の騎士はクライマックスの手前、映画では最後の困難が襲う前の辺りですね。そこで自らの所属する組織に粛清され、そのまま命を落とします。もちろん、仲間の中で彼を庇う人間などいません。彼は自らの最期において、愛する人の人生を狂わせてしまったことを深く後悔します。そして、救いを求めるかのように喜んで断罪を受けるのです。」
なんて後味の悪い終わり方なんだろう。きっとその頃には、主人公の騎士は正気を保ててはいなかったのだ、と直感的に思った。
「じ、じゃあ、あのお嬢様は……」