第3章 第3話
「そういえば、今日の映画は、仕事とどんな関係があるのですか?」
よし。良い感じに話題を変えられたと、我ながら思う。
「ええ。私は前も言った通り、書籍翻訳の仕事をしています。今日の映画『荊姫の騎士』の原作は、英国の小説です。この映画が日本で予想外の好評を得たことにより、急遽原作小説も和訳されて発売されることになりました。その和訳を、私が担当することになったのですよ。」
「へぇ~。」
それで、映画の和訳を参考にするのだろうか?
「とはいえ、映画のクライマックスと原作本のクライマックスは、かなりストーリーラインが違っていて、もはや別の物語のようになっています。」
「ふんふん。」
ん?あれ?ということは、セバスチャンさんは、もうこの映画のエンディングを知っているのか。まぁ、仕事だし、何回も観てるのかな。
「ですが、今お話してしまっては、映画を観る楽しみが半減してしまいますね。」
セバスチャンさんはふわりと微笑む。その瞬間、映画開始10分前のアナウンスが流れた。私が慌ててトイレに行って戻ってくると、席にハーブティーが置かれていた。売店で買って持ってきてくれたらしい。お礼を言ったところで、劇場が暗くなり、映画が始まった。暗い中でセバスチャンさんの方をチラチラと見ると、2回ほど目が合ってしまった。妙に気恥しくなり、そこからは必至で字幕を追った。元々そう英語ができるわけでも、作品の事態背景にさほど予備知識も無い私は、字幕をしっかりと追って、ストーリーに付いていくしかない。