第3章 第3話
「着きましたよ。」
それどころではなかった私は、映画館に着いたことはおろか、車が一体どこを走っていたのかも全く分からなかったが、以前に友達と来たことのある映画館だったので、ほっとした。助手席のドアを開けてくれるセバスチャンさんだったが、もういい加減、そこまでしなくてもいいような気もするが、少し疲れたので、もう口にしないことにする。
さすがに日曜日は、それなりに混雑している。カウンターには、ぼちぼち長い列ができており、友達連れ、親子連れの他に、カップル連れの客で賑わっていた。列に並ぶのは少し面倒に感じたが、映画を観に来た以上は仕方が無い。
「私、並んできますね。」
そう言って列に並ぼうとしたところを、手を握るような形で制され、二重の意味でドキリとした。
「あっ……!?」
「可愛らしい反応ですね。」
もう、自分の感情の波をどうしていいのかも分からない上に、手なんて握られた日には、反応に困る。若干自分の顔が火照っているのが分かる。
「嗚呼、すみません。ですが、列に並ぶ必要はありませんよ。」
この人、絶対に済まないなんて思ってない。その瞳の奥には、確かに好奇の色が見て取れる。こちらの反応を見て楽しんでいる―――?
「そう、ですか。」
出来る限り冷静に返す。
「ええ。既にチケットはもう購入済みですよ。これが、結衣さんの分のチケットです。」
そう言って、セバスチャンさんはチケットを一枚手渡してくれた。以前に映画に来た時のチケットと、何だか質感が違ったので、何となく妙な感じがして、チケットに印字された文字に目を通す。すると、『プレミアム』の文字が。