第3章 第3話
「よく分かりましたね。今日の映画が、私の仕事関連だと。」
慣れた手つきで運転しながら、セバスチャンさんは優美な声で話しかけてくる。
「はい。前に翻訳家だって言っていたのを覚えていたんです。」
仕事だとはっきりと言われてしまったことで、実はほんの少しショックを受けた私。こんな素晴らしい人は、始めから私などの凡人を相手にしないことは当然で、百も承知だけど、私もやはり女を捨てきれないみたい。思い上がるのもいい加減視した方が良いということを、もう一度自分自身に言い聞かせた。
「ですが、それだけではありませんよ。」
「そ、そうですか。」
「私は、もっと貴女という人間、人となりを知りたいとも思います。」
……。どう反応して良いのだろうか。私のような凡人は、それこそ掃いて捨てるほどいると思うけど……。あぁ、そっか、分かった!
「イケメンも大変ですね。こんな凡人となんて、会話する機会すらないんですね~。」
「……。」
あれ、私。何かまずいことを口にしただろうか。返事が返ってこない。恐る恐る運転席のセバスチャンさんを見ると、助手席に座る私を見て、ほんの少し目を見開いて固まっていた。いつもの笑みも無し。ついでに目が合ってしまい、私はどうしていいか分からなくなった。私は慌てて視線を外し、次の言葉を探すが、流石は私。見事に何も見つからない。
「ぷっ。」
あれ?
今度は視線だけでセバスチャンさんを盗み見ると、噴き出して笑っていた。会って間もないけれど、作り笑いのような微笑みしか見たことがなかったから、私は少し嬉しくなった。
「失礼しました。結衣さんは、……面白い人ですね。」
「んえ?そうですか?」
イマイチどこにウケたのかが分からないけれど、セバスチャンさんが面白いと思ってくれたなら、それでいいことにしよう。
「えぇ。」
まだ肩を揺らしているところを見ると、なかなかツボに入ってしまったらしい。こんなセバスチャンさんを見るのは初めてなので、新鮮な気がする。思わず顔をあげて、そんなセバスチャンさんの様子を見つめてしまう。