第3章 第3話
忙しい日々は、過ぎ去るのが早い。あっという間に日曜日が来てしまった。いつもの休日と比べると数時間早く起きて、わずかばかりの準備をする。デートでも何でもないが、流石に汚い普段着でセバスチャンさんの横にいるのは失礼なので、せめてそれなりに見えるようにしなければ。とはいえ、綺麗なお洋服も、渚のような化粧技術も何もない私は、いつもよりもほんの少し“女性らしく”見えるようにするのが関の山なのだけれど。穿き慣れないひざ丈のスカートに足を通す。良かった。前よりもそれほど太ったりなんかはしていないみたい。鞄に携帯を入れて出来上がり、とそこで着信。まだ、待ち合わせ時間の20分も前なのに。画面には、セバスチャンさんの文字。
「おはようございます。佐藤です。」
『おはようございます。もう数分で着きそうですが、待ち合わせには時間があります。待っていますので、ごゆっくりどうぞ。』
「はい、すぐに行きますね。」
『クス、慌てなくて結構ですよ。』
慌てなくてもよいと言われたが、待たせるのは申し訳ない。そのまま電話を切り、鍵を掛けたのを確認して、私は弾かれるようにしてマンションを飛び出した。
マンションの前には、この間と同じ、高級そうな黒い車が止まっていた。助手席のドア前には、セバスチャンさんが立っていた。以前に会ったときの服装が二回ともスーツ姿だったこともあり意外な印象を受けた……と言うよりは、今日はカジュアルな姿、というかファッション誌のモデルがそのまま出てきたような姿。
「すみません!お待たせしました!」
「いえいえ。待ち合わせよりも早くに呼び出してしまって、すみませんでした。」
もしかしたら、早く行って早く帰りたいのかな。仕事の映画鑑賞だとしたら、そうだろうし。
「お仕事ですよね?お忙しいのなら、急ぎましょう!」
「……。あぁ、なるほど。では、車内へどうぞ。」
セバスチャンさんは、一瞬考えるような目をした後、二コリを微笑んで助手席のドアを開けてくれた。なんだかくすぐったいような気がする。