第3章 第3話
『お気遣いありがとうございます。ですが、私に誤解されて困るような人はいませんよ。』
「そ、そうなんですか……。」
紳士として完璧な答えだと思った。たとえ話し相手の血の巡りが悪く、間抜けな受け答えしかできなくても、その場だけはこうして話を合わせることができるなんて、セバスチャンさんは人間としてよほど良く出来ているのだな、としみじみと思ってしまう。こんなに顔が良くて、優しいのだ。その辺の女が放っておくはずが無いではないか、と思うが、それを口にできるだけの勇気も行動力も、ましてやこれを失礼にあたらないように表現できるだけの話術も、どれひとつだって私には無い。
『では、朝十時に、結衣さんのマンション前でお待ちしております。到着の少し前には、携帯に連絡も入れますね。』
何かもう、完璧すぎるのではないだろうか。この人が飲み会とかイベント事の幹事とかしたら、全てが完璧に進行するに違いない。脱帽して、ありがとうございますとお礼を言って、おやすみなさいと言葉を交わし、電話を切った。時計を見ると、時間は大して経っていないのに、何時間も喋っていたような気がした。どっと疲れた。