第8章 届いて…【黄瀬 涼太】〈リクエスト〉
→ごめんね、引っ越さないといけないの。
柚は、震える手で手話をしながら黄瀬に伝える。その手話が伝わったのか、黄瀬は目を見開いていた。
「それ…いつ分かったんスか……?」
驚きのあまりに声を出してしまった黄瀬。しかし、耳が不自由な柚だった為、何を言っているのか分からなかった。黄瀬は、慌てて手話にしてから柚に話掛ける。
柚に伝わったみたいで、悲しそうな瞳に、手話をしながらこの前…と弱々しい仕草を見せる。その様子から、黄瀬は唇を噛み締めて悔しそうな表情をする。
黄瀬は、柚の右腕を掴み自分の方へと引き寄せる。油断をしていた柚は、黄瀬に抱き締められる形となっていた。突然の出来事だった為、柚は戸惑うばかりだ。
「…嫌っス……。こんなところで、別れたくないっス…。もっと、柚っちを知りたいのに………。こんな……の、ないっス……。」
黄瀬は、柚を抱き締めたままそんの風に呟いていたが、聞こえない柚には伝わらない。手話にしないと、伝わらない…。
黄瀬にとっては辛い出来事にしかならなった。ゆっくりと、黄瀬は柚を離す。これが、最後だった。2人が手話という会話が…。
柚は、泣きながら黄瀬と別れて行った。その場に残された黄瀬は涙を流していた。
「柚っち……大好きっスよ…。永遠に……。」
届いて…【黄瀬 涼太】
〈END〉