第8章 届いて…【黄瀬 涼太】〈リクエスト〉
→なんでもないよ、大丈夫だよ!
柚は、慌てた仕草で手話をする。その様子から黄瀬は、首を傾げるがすぐな返事をする。
「分かったっスよ。でも、何かあったらオレに相談してほしいっスよ。」
黄瀬の温かい言葉に、柚は泣きそうになっていたがそこは堪え、微笑んでありがとう…と手話で伝えるのだった。最後の会話となってしまった。
結局柚は、黄瀬に引っ越すことを伝えきれずに海外へと旅立ってしまった。黄瀬は、いつも通りに過ごし帰る際に、いつも柚の教室に迎えに行くが柚の姿がなかった。
「柚っちがいない?」
黄瀬がそんな風に呟いていると、柚と同じクラスの男子が言った。
「もしかして、松山のことか?アイツ、今日海外に引っ越したらしぜ。何も聞いてないのか?」
「え?引っ越し……た?」
昨日、柚が辛そうな表情をしていたのはこの事だと今頃気付いた黄瀬は、慌てて学校を飛び出しては、タクシーで空港へと向かう。
しかし、空港へと向かってもそこには柚の姿がなかった。既に遅かったのだ。もう、旅立ってしまったのだ。黄瀬は、悔しくて別れの言葉も出せず、涙を流すしかなかった。
「なんで…いなくなっちゃったんスか…。柚っち…。もっと喋りたかったっス…。告白もしてないっスよ…。好きっス…。大好きっス……。戻ってきてほしいっスよ……。」
届いて…【黄瀬 涼太】
〈END〉