第8章 届いて…【黄瀬 涼太】〈リクエスト〉
黄瀬は、柚の右肩をちょんちょんと突っつく。それにやっと気付いた柚は、黄瀬の方を振り向く。
振り向いた柚を見た瞬間、黄瀬は目を見開く。何故か、心臓の鼓動が増したのだ。どうやら、黄瀬は柚に一目惚れをしたらしい。
柚の手の中には、バスケボールを抱えていた。
「返してもらえないっスかね?オレ達のボールなんスけど…。」
黄瀬が柚に声を掛けても不思議な顔をするばかりだった。こんなに近くも黄瀬の声が聞こえないことが不思議だと思っていた。
しかし、黄瀬は柚が持っているボールを指差しすれば分かったのか、柚は素直に黄瀬に渡す。
「ありがとうっス!」
黄瀬は、満面の笑みを浮かべながら柚にお礼を言う。すると、柚は、小さな手で優雅に仕草を黄瀬に伝える。そう、柚は手話をしていた。
柚は、元々耳が聞こえなかったのだ。だからいくら黄瀬が声を掛けても分からないのだった。柚がやった仕草が手話だと気付いた黄瀬は、少し難しそうな表情をしていた。