第2章 鬼ヶ里
「神無、神無……」
優しく肩を叩かれ、深い暗闇に堕ちていた意識が戻ってくる。
「ん……葉月…?」
目を開けると、葉月がこちらを覗き込んでおり、その奥にはいつもの見慣れた天井が広がっていた。
「よかった…目が覚めて」
こんなとき、いつも葉月は自分から事情を話すまで詮索しない。
双子だから、そんな簡単なことじゃない。ただ、お互いに心に宿す闇がある、そしてそれを心で理解しあっている、だから互いに言葉を交えなくとも痛みがわかりあえた。
「ごめん…守ることができなくて……」
生まれるとき、いくら双子とはいえ、同時に胎内から出てくる訳ではない。どちらかが数分先に生まれ、どちらかが数分後に生まれる。
葉月は数分先に生まれた、神無の姉だった。
だからこそ、彼女は妹を守る。そんな責任感を小さい頃から宿していた。
「神無、ごめんね…、何もできなくて」
大丈夫、神無はそう言いかけたとき、葉月の異変に気がついた。
噛みちぎりそうな勢いで強く下唇を噛んでいる。そして、手を握りしめ、無意識に爪を食い込ませていた。
そのどちらとも少量の血を流しながら。
「え?………どうしたの?」
声をかけても全く反応しない。いつもならすぐに笑顔で振り向いてくれるのに。
「葉月…?」
葉月の状態がまた変化し始めた。
顔が真っ赤に染まり、だんだん息が荒くなっていく。
「はあっ!はあっ!ごめっ…なさ………い…っ」
なにに謝っているの…?
いつもなら分かる彼女の心が
分からない―――