第22章 受け入れ
『こんにちは仁王君。ああ、そのままで居てください。振り返ったらいけません』
後ろから急に声を掛けられた雅治はビクッを体を一瞬だけ震わせ
水分補給している手が止まり、タオルで汗を拭いている
仁「...何しに来たんじゃ?」
冷たい言葉が返ってきた、わかっていはいた事だ
『試合の応援に決まっているではないですか』
仁「テレビでも中継されとるじゃろう」
『生で見たいんです。あなた方の試合を』
仁「体の調子はどうなんじゃ?」
『今までになく快適ですよ』
仁「...そうか」
雅治の隣に座っていた精市が振り返って目を一瞬だけ見開いた
優しく微笑んだら、精市からも微笑みが返って来た
『何を焦っているのですか?』
仁「俺がか?」
『はい。イリュージョンで相手に成りすましても実力を出し切れていませんよ』
仁「......」
『焦っては行けない。そう教えてくれたのは誰でしたか?』
仁「フッ...俺じゃったな」
『入院と試合は大いに違いますが、焦っていはいけません。わかっていますよね?』
仁「...おう」
『私は此処にいます。あなたも此処にいます。皆も此処にいます』
仁「......」
『私が出来るのは見守る事だけです。そして言葉を掛けるだけです』
仁「それだけで十分じゃ」
『そうですか。では、これをプレゼントします。そのままじっとしといてください。下を向いてもいけませんからね』
ポケットからネックレスを取り出して雅治に掛ける
後ろでしっかりと留め具を止め、手を離せば
雅治の首にそれはぶら下がった
『小さい頃、母から貰ったものですが、私はアクセサリーを好まないのでそのまま付けて居てください』
仁「見ていいか?」
『構いません』
そう言うと雅治はネックレスを手に掴んでそれを見た
私が渡したのは、ただの透明なガラス玉
ビー玉の一回り小さくした感じの
ただの無色透明のガラス玉
私はそれが大好きだった
どんな色になる事ができ、逆にどんな色を混ぜても生み出せない色だから
『私が望むのは優勝ではありません。私が欲しいのは楽しみだけです。そのついでに勝利が欲しいだけです』
仁「欲張りじゃのう」
『勝ってくださいね、雅治』
仁「!、...おう!」
ラケットを持ってコートに向かう詐欺師
その背中は大きくてしっかりとしていた