第8章 過去との決別
「やはり気づかれていましたか」
データマンの彼に誤魔化しきれるはずもない
それに私は、元々彼と面識がある
その日の部活後、いつもの様に赤也と待ち合わせて帰った
帰り道赤也の忘れ物を取りに戻り、渡しに来た柳先輩に挨拶をした
たったそれだけ
そして“私”をインプットされてしまっていた
この人には敵わないなと思う
柳「藤江を思い出していたのか?」
そう問われ私の体は反射的にびくりと跳ねる
それが答えだった
柳「思い出させてすまなかった」
そう言って、椅子に座っている柳先輩が頭を下げた
「あの、頭を上げてください柳さん。私、元々藤江先輩の言葉なんて気にしていませんから」
そう、藤江先輩に何を言われたところで痛くも痒くもない
柳「だが、先ほど魘されていた。倒れる前も……」
私が首を横に振ると言葉が途中で止まる
「夢では藤江先輩に言われた言葉を、青学のみんなに言われました。この場所は居心地がいい。だから今更、怖くなったんです。」
ふーっ、と一つ深呼吸してから再度言葉を続けた
「信頼している仲間から言われると結構応える言葉でした。でもそれは夢ですから」
そう言うと柳先輩は私の頭を撫でてくれた
柳「そうか。ならば良いのだ。お前は今が大切なんだな」
そう言った彼の言葉は優しくて、表情も撫でている手のひらも優しかった。そして暖かかった。
それが妙に安心できて暫くそのまま撫でられ続けた
そして名残惜しいが彼の手が頭から離れた
そして次の瞬間には抱きしめられていた
私が慌てていると背中に回されている手がトントンと一定のリズムを刻んでいた
柳「何かあれば俺のところへ来い。いつでも、なんでも受け止めてやる」
そう言ってくれた柳先輩の鼓動が少しだけ早くなったように感じた
「はい。ありがとうございます」
その音に安らぎ、私は再び目を閉じた